Picnic in the room

シートを敷いてワインで乾杯

4月の週末(4)

4月22日(土)

田植えの準備で田んぼに水が張られている。車に乗っていると、水上にいるみたいで気持ちがいい。山の新芽は太陽を浴びてキラキラだ。一番好きな季節かもしれない。

でも幼少期は、この時期がとにかく怖かった。毎年決まって、恐ろしい夢を見たのだ。それは菜の花が咲き、モンシロチョウが飛ぶのどかな田園で、知らないおじさんにさらわれる夢。ピンクと緑と黄色の淡く朗らかなシチュエーションで、突然誰かに連れて行かれるコントラストったら、恐怖でしかない。だから春が怖くて、暖かくなってきたら「今年こそはあのおじさんに打ち勝つ…!」と、毎晩意を決して眠りについていた。そのループは小学校高学年くらいまで続き、パタリとなくなった。

だからというわけではないけど、高校時代、この時期によくジョイ・ディヴィジョンを聴いた気がする。音楽雑誌で「美と残忍性の組み合わせ」と紹介されていて、なんとなく夢とリンクしたんだと思う。

前職の先輩にこの話をしたら、「わかる〜!私も田植え中に脚をヒルに吸われたとき、頭の中でジョイ・ディヴィジョンがかかってたもん!」と言われてギョッとした。

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4月23日(日)

母の本番で、朝から忙しい。ふだんピアノ講師や合唱の指導をしている母の本職は歌だ。いまも「二期会」という声楽家団体に所属し、師匠のところにレッスンに通っている。

コロナ中、家族に感染リスクがあってはいけないので母はずっと活動を諦め、それはそれは辛そうだった。「もう世間から忘れられちゃったよ」とか「私の視界は真っ黒」とか言って、痛々しかった。

それが、三年ぶりのステージ!400人キャパの会場は満席で、何人か泣いているお客さんもいた。私も祖母も弟も、いい時間だったねって言い合って帰った。

私は母を尊敬する。