Picnic in the room

シートを敷いてワインで乾杯

4月の週末(5)

4月29日(土)

夏は毎年うまく眠れず、一睡もしないまま明け方の街を散歩するのが習慣になっている。

4時ごろ、海月のようにフラフラ歩いていたらオレンジの光が灯る一角を住宅街で見つけた。なんだろうと近寄ってみると、路地に面したマンションの部屋の、テラスから漏れる光だった。

柵状の門からなかが見える。大きなカボチャやメリーゴーランドのオブジェ、年季が入っているけど上等なものだとわかるソファ、鳥カゴ、いくつものシャンデリアのような照明があった。ちぐはぐな宮殿のようで、幻想かと思った。

さらに驚いたことに、そこには、人がいたのだ。明け方4時に、美青年が3人。色が白く、整った顔立ちで、みんな一様に痩せていてお洒落な服を着ていた。夏の朝の爽やかな空気にふさわしくない気怠い空気を纏い、煙草を吸っていた。煙が紫色だった。妖精の水浴びを見るってこんな感じなのかもしれない。私は息を潜めて様子を観察し、その興奮を抱えたまま帰宅してベッドに潜り込んだ。

それからというもの、そこはお気に入りの散歩スポットになり、朝も昼も夜中もよく立ち寄った。でもさっぱり何のお店か、はたまた個人宅なのか、調べても、通ってもわからない。たまに美青年が出入りする姿を見かけただけだ。しばらくして彼らは退去したらしく、あのファンタスティックな空間は跡形もなく消えてしまった。

そして私は今日、そのマンション内でまつげパーマの施術をしているお店を見つけ、特段まつげを上げたいわけでもないのに律儀に予約し、同建物に潜入することに成功した。

怪しまれないよう、いよいよ施術も大詰めというころ、「あそこのテラスにはいったいどんな方がいらしたのですか?」とまつげパーマのお姉さんに聞いた。「え、そんな場所ありましたっけ?」「けっこう長くお店やってますけど、気づかなかったです」との返事。

あの異質な空間に気づかないはずはないのにーークイッと上がった睫毛を確認しながら、それならそれで、と思った。私だけの物語だ。

まつ毛も上がったし、満足してマンションを出た。そんな午前中でした(午後の話は明日に記します)

 

4月30日(日)

風邪をひいてしまい、ひもすがら布団に包まって過ごす。

連休の始まりでSNSは楽しそう。私はちょっと寂しくなったけど、いいもん、私だって楽しいことしたもんねって昨日のことを反芻して過ごした。

昨日は、午後も出かけた。

池袋にあるギャラリー「ポポタム」の18周年を祝い、多数の作家さんが「18」をテーマにした作品を持ち寄りグループ展を開いていた。友人のヨージさん(寺田燿児さん)も参加しているので、響子と観に行った。池袋は我々のホームタウンだ。晴れた日で、ノンアルビールを飲みながら歩く。自由学園明日館を眺めて「ポポタム」へ。

ヨージさんはたった1枚の絵に、壮大な物語の予感をはらむ物語を描いていた。漫画も描けるのに、1枚だからこその強さも表現できて、本当に引き出しが多い。それぞれが作家性を発揮し、18という数字がいろんな表情を見せる空間。根底にあるギャラリストさんと作家さんのあったかい信頼関係が伝わってきて、見ていて嬉しくなった。

それから立教に潜入し(この日は潜入してばかりだ)、夜は馴染みのダイニングバー「ha-ha」に行った。店長が元気で、ごはんが美味しくて、ノンアルビールを4杯も飲んだ。ヨージさんと響子と四方山話をして解散。決してキレイとは言い難くとも、池袋は楽しい。